徹夜明けに思い出した本当にあった怖い話

若かりし頃勤めていたバイク屋
 
そこにやってきた、ちと柄の悪そうな親子2人。
 
親父さんは明らかにその筋かと思われ、息子もまた確実に血を引き継いでいる模様。
 
まあ、そういうお客さんも多い土地柄なのでいつも通り接客。
 
息子が16になったので、免許所得、BALIUSが欲しいとの事。
 
たまたまそう乗られていないワンオーナー車の極上車があったので、新車と迷う親子。
 
親父 「おい、にーちゃん、こっちの中古でも壊れたりはせんじゃろうの?」
 
私 「そうですね、物はイイので大丈夫ですよ、保証もありますし」
 
その場で現金一括購入、その週末に完全整備した後に納車。
 
時間が合えば持っていきますよと伝えたのだけど、すぐ乗りたいからと親父さんの送りで朝一番にご来店、エンジンのかけ方、ガソリンの注ぎ方、空気圧等のかんたんな点検等、一通り車体の説明をした後、かなり嬉しそうに、ふらつきながらギクシャクしながら乗って帰る息子。
 
 
何事も無くその日は過ぎ・・・
 
 
翌朝
 
出勤したら、冬だというのに汗だくの極道親子が店の前にバイクを停め、足元にタバコの吸殻を溜め込んでこちらに睨みを利かせている。
 
尋常ではない雰囲気。
 
こちらから声をかける間もなく
 
 
「おいコラ、どうなっとんじゃ、もうめげたじゃろうが、どうしてくれるんじゃ!」
 
 
※めげた=広島弁で「壊れた」
 
そりゃあもう、凄い剣幕でどやし立てる親父さん。
 
心臓弱い人なら泣き崩れます。
 
まあ、確かに買って翌日に動かなくなったら怒る気持ちは分かるけどさ・・・
 
とりあえず事情を聞く事に。
 
どうも乗って帰った翌朝、徐々に調子が悪くなり、結果国道上で止まってしまい、息子からのヘルプを受けた親父さんが駆けつけ、2人で5km近い距離を押してきたとの事。
 
ここでふと思った。
 
季節的に、もしかしたら冬と言うこともあるし、キャブがアイシングを起こしているのではないかと。
 
広島は土地柄、川が多いせいで冬でも非常に湿度が高い。
 
おかげで排気量の小さいバイクなどは冬場にキャブ自体が気化熱で氷点下になってしまい、キャブの中が結露、凍ってしまうというトラブルが時たま起こる。
 
早速点検しようとタンクを外し、キャブのクリーナーボックスを外そうと思ったときにふと違和感・・・・・
 
あれ、BALIUSってキャブヒータ付いてるし、試乗では一度もそんなこと起きなかったよな・・・
 
それに・・・・・これ・・・・・
 
振り返り、勇気を出して親子に声をかけてみる。
 
 
 
私: 「あの・・・すみません・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
親父: 「なんじゃい、もう直ったんか?金はかからんのじゃろうの!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私: 「いや・・・あの・・・これって・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ガソリン、注がれました?タンクが空みたいなんですけど・・・」
 
 
 
 
 
顔を見合わせて固まる親子。
 
息子に問いただす親父。
 
泣き出しそうな息子。
 
親父 「お前、きのうこのお兄さんが納車前にガソリンの注ぎ方とか言いよったの聞きよらんかったんか!」
 
息子 「だって、一晩で無くなるとか思わんかったけぇ・・・」
 
親父 「恥かかせやがって、このバカタレが!」
 
 
殴られる息子。
 
 
 
メーター見ると、冬だというのに一晩で300km以上乗ってる。
 
どんだけ嬉しかったんだか。
 
タンク外す瞬間に、「あれ、タンクが軽っ・・」って思ったんですが、本当にガス欠とは。
 
 
とりあえず店にあったガソリンを1リッターほど入れて、コックをRESにして近所のガソリンスタンドを案内した。
 
気まずそうに去っていく親子。
 
冬の朝に起きた珍事を、この時期になると思い出します。