今更だけど強度と剛性

前々から何度も書いているんですが、

今回もフロントアクスルシャフトを作る時に知人との会話の中で、まだまだ誤解している人が多いんだなと感じたので。

結論から言うと、同じ径でアクスルシャフトを製作する場合、SS400だろうがハイテン鋼だろうが所謂クロモリだろうが、剛性は変わりません。

変わるのは強度です。

工学部で材料力学を勉強した人なら当たり前だろってハナシなのですが、剛性はヤング率で決定されます。

ヤング率って、所謂「鉄」ならSS400だろうがハイテン鋼だろうが、ほぼ変わりません。

柔らかい鉄と硬い鉄の剛性比較のグラフを挙げられている方が居られたので

イメージ 1



簡単に言うと270MPaってのが強度の無い鉄、590MPaってのが強度のある鉄です。

縦軸が加えた力、横軸が変形量です。

見ての通り、確かに590MPaの強度のある鉄の方が圧倒的に力を加えて変形する量が少ないです。

そこだけ見たら、ほら見てみろ!強度のある鉄で作った方がエラいじゃないか!

となるのですが…

注目すべきはここ

イメージ 2



縦軸で75MPa位までって、どちらも変形量は同じ。

丸で囲んだ部分。

ここが普段使われる領域です。

グラフが途中で折れている領域は、これが仮にアクスルシャフトであれば、すでに曲がってしまって元に戻らない状態を指します、設計上想定されていない降伏点を過ぎた領域なので、通常走行では使われない領域です。

簡単に言うと、違いが出るのは想定外のチカラが加わった時に曲がり始める領域が違うって事です。
事故った時に曲がり難いってだけで、普段使われる領域では違いが無いことは既に材料力学の世界では大昔から知られていることです…

わかりやすく書かれているサイトがあったので紹介しておきます

http://green.atengineer.com/pr/fukai/20100531001.html

http://green.atengineer.com/pr/fukai/20130121002.html


特にこの一文(上記サイトより引用)

"2本の同じ太さの棒を、それぞれ強度の低い“鉄”と、強度の高い“鉄”で作ります。この2本を曲げたときには、少しくらいの変形なら手を離せば元の真っ直ぐの状態に戻ります。しかし、ある程度の変形量を越えると、曲がったままとなり元の真っ直ぐには戻らなくなります。この元に戻らなくなるときの強度を“降伏点”と言います。
材料が「もうダメ・・・」と降伏しちゃうわけですね(笑)
この降伏点は、引っ張り強度と相関関係にあり、強度の低い方は、降伏点も低いので、少ない力で曲がってしまい、元に戻らなくなります。これを“永久変形”と言います。
これに対し、同じ太さでも強度の高い鉄で作った棒は、降伏点も上がりますので、強度の低い鉄で作った棒が永久変形する力でも、曲がりはしますが手を離せば元の真っ直ぐに戻ります。
そりゃぁそうです。強いんですから。 ですが・・・
実は、強度が低くても、高くても、材質が“鉄”である以上、強度の低い鉄が永久変形する以前。つまり降伏点以前の領域では、強度の低い、高いに関わらず同じ力をかければ、同じだけ曲がっているのです。不思議ですねぇ・・・"


工学系の勉強をしたことがある人なら当然の知識なのですが、何故か勘違いしているコンストラクターやショップが未だに多いようで…
降伏点以上のチカラが入った時に時に剛性アップが効くんだ!なんて言った人も居ますが、降伏点過ぎて使用するようなモノづくりって、それってただの設計ミスですからね…

怖いのは、上記サイトにも書かれていますが剛性と強度を混同して勘違いして、クロモリだから外径同じで思いっきり中空化しても大丈夫!なんて勘違いしている人。

結果、強度はあっても剛性はありません。

それでも乗り味変わった!って人は別に否定はしません。
素材が変わったことにより、固有振動数が変わって、体感に変化があったことは考えられます、まあ、下手したら肉抜きし過ぎて剛性不足して降伏点ギリギリ…なんてことになってなけりゃいいんですが。

引用元 株式会社深井製作所様

http://green.atengineer.com/pr/fukai/
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