圧縮比と圧縮圧力

圧縮比と圧縮圧力

整備士の勉強をされた方や機械工学部卒の方は当たり前のように違いを知っていると思いますが、
何故か未だにバイク業界ではこれを混同している人やお店があるようです。

名称が似ているから?

例えばシリンダーの容積が90cc、燃焼室の容積が10ccなら圧縮比は(90cc+10cc):10ccとなるので100:10=圧縮比10:1です。

これもまた誤解が多く、上記の場合は9:1だろ!って商売やっている人でも本気で言われる方が稀におられますが・・・

上記のエンジンでシリンダー容積を大きく(ボアアップ)して100ccにすれば圧縮比11:1になるし、
シリンダー容積を90ccのままヘッド面研して燃焼室容積を9ccにすれば圧縮比は11:1です。

ピストンカタログに表記されているのはこの数字です。



対して、圧縮圧力はエンジンコンプレッションと表記されることの方が多いです。
単位は㎏/㎠(最近はkgf/㎠)、要するにシリンダー内部1平方センチメートルあたりに何キロの圧力がかかっているかの単位です。
これは、計算では求められません、専用計測具で測定によって求めます。

従って、回転数(ピストンスピード)、スロットル開度、エンジン温度によるクリアランスの変化でその数値は同じエンジンでも大きく変化します。
一般的に
回転数はスターターモーターによる回転数(Zなら概ね300~400rpm)
スロットルは全開
測定は全てのスパークプラグを外して暖気後に行う
とされています。

一般的には圧縮比を高く設定すれば圧縮圧力は上がります。
例えばMTCのドラッグレース用、圧縮比13:1みたいなピストンをノーマルヘッド、ノーマルカムと組み合わせると、圧縮圧力は私が以前試した場合では19~20㎏/㎠まで上がりました。
くたびれたセルモーターでは始動できず、モーターを新品にしてもワンウェイクラッチが壊れました。

今も同じくMTCのドラッグレース用ピストンを使用していますが、現状では同じ測定方法で概ね圧縮圧力は14㎏/㎠です。

何故圧縮比の高いピストンでも圧縮圧力はさほど高くないのか?
それはカムシャフト/バルブタイミングを変更している為で、ノーマルカムよりもバルブの開いている時間が長い(バルブの閉じている時間が短い)ので、結果的に圧力はさほど上がっていません。

要するに、圧縮比がいくつのピストンを入れたら圧縮圧力はいくらになるといった計算は出来ません。

ところが自称専門店とかいったところの人でもこれを本気で長年誤解している人が未だに居ます・・・

「ワイセコのピストンってカタログにはコンプレッション10.25って書いてあるけど、実際組むと13くらい出るよね!」

とか未だに言っている人も・・・

確かにカタログにはコンプレッションの文字はありますが、あれはコンプレッション(圧縮)レシオ(比)のことであって、エンジンコンプレッションのことではないんですけど。

圧縮圧力は高いからいい、低いからダメ、とかそう言ったものではありません。
使用目的に合わせて圧縮比やバルブタイミングでコントロールして使用目的に合わせます。
ただ言えるのは、圧縮圧力を上げていく事はノーリスクではありません。
普通にしか乗りません、キャブも純正相当、点火ユニットも純正、という人には百害あって一利無し・・・とまでは言いませんけど、ネガティブな部分が目立ってくるので連鎖的にアレコレと変える必要も出てきます。


たまたま手元にZ750Dのマニュアルがありましたが、この車両では7.3~10.5㎏/㎠、ばらつきは1㎏/㎠以内となっています。