点火時期(初級編)

色々なイグニッションシステムが売られています。

どれが一番パワー出る?と聞かれたりもしますが、同一イグニッションコイル、同一プラグを使用して比較するなら、最大パワーに限って言えばどのイグニッションシステムを使用してもピークパワー発生時の点火時期が同じ度数ならパワーは全く同じです。

当たり前だけど。

つまり、ノーマルイグナイターだろうがウオタニSP2だろうがMOTECフルコンだろうが、正常に作動して同じ点火時期に設定されていれば、ピークパワーは同じです。

じゃあ何でわざわざ社外品の点火システムにわざわざ手を出すのかと言えば、そこに至るまでの領域(普段乗りで一番よく使う領域)で更なる高効率を求めるから。
点火時期の大前提として、エンジンが最も効率よく回るのはノッキングが出るギリギリ手前の点火時期だという事をまず念頭において下さい。

TPS(スロットルポジションセンサー)を用いた点火時期制御が今は主流になりつつあります。
Z/JノーマルではTPS無し、クランク回転で生じる遠心力を利用し、ガバナーで機械的に出力信号を変化させて点火時期制御をしていますが、構造的にシンプルな反面、スロットル開度は無視されるので負荷に関係なく点火時期が決定されます。

この負荷ってのがなかなかわかりにくいのですが、簡単に言えば下り坂で60km/hで走るのと、登り坂で60km/hで走る時に、同じギアを選択して同じ回転数で走れば当然登り坂のほうがエンジンに負担がかかります。
これがエンジン負荷が高いという状態。

当然、ノッキングが出やすいのは登り坂。
下り坂ではノッキングは簡単には出ません。

これがTPS無しではイグナイターはエンジン負荷の高い、低いを判断出来ないので、どちらを走っても差し支えない、どっちつかずのソコソコの点火時期に設定されています。

TPSで何故エンジン負荷の高い低いを判断できるのかと言うと、例えば3000rpmでスロットルを大きく開けている信号がイグナイターに送られていれば、登り坂や急加速でエンジン負荷が高い状況にあると判断し、
同じ3000rpmでもスロットル開度が小さいよという信号がイグナイターに送られれば下り坂や平坦な道で、エンジン負荷は低いと判断する事が出来るだろう、との考えから採用されたものです。

結果として、エンジン負荷の高い時には点火時期を遅らせてノッキングを防ぎ、
エンジン負荷の低い時には点火時期を早めてより高率よくエンジンを運転する事が出来、エンジン負荷の低い実用域でのパワーアップが望める…という理屈です。

低負荷時に効率アップさせるのが主な目的なので、シャーシダイナモなどでの高い負荷をかけての測定では数値の違いはほぼ出ませんが、負荷の低い領域で進角させてやることで街乗りやツーリング時に明らかなトルクアップが体感出来る上、その結果として燃費の向上などが見込めます。

バキュームセンサーを用いた点火時期制御も理屈は同じで、負荷の高い時はインマニ内のバキューム値が下がり、負荷の低い時はバキューム値が高くなるのを利用して制御しています。

TPSとバキューム制御はどちらが優れているのかと言うのはなかなか難しいですが、私個人の考えではバキューム制御の方が向いているのかなと思っています。

しかし市販車でTPSが主流になっているのは、バキューム制御はオートバイのような1~2気筒でバキューム値の安定しないエンジンには不向きである事、4気筒でもバキュームホースを4気筒からうまく分岐合流させてやるために複雑なバキュームホースレイアウトが必要なこと、
その複雑な経路のバキュームホースが経年劣化などで一部でも損傷すれば二次エアー吸い込みなど、即エンジン不調に陥るリスクがある事、ゼファー1100初期型に代表されるように、バキュームセンサー自体の耐久性や精度に当時はやや難があった事などが理由では無いかと思っています。  

近年のモデルでは両方を利用し、負荷検出にはバキュームセンサー、スロットル開度やスロットルスピードをTPSで、というのが主流です。

ちなみに自分のJの場合はバキューム制御で、バキューム値の高い(=低負荷)場合は2500~3500rpmで点火時期は上死点前で50~52度、
バキューム値の低い(=高負荷時)は2500~3500rpmで点火時期は上死点前25~27度に設定しています。


イメージ 1




なぜこの数値になったか?
これは単にノッキングの出るギリギリ手前を狙った結果です。
とにかく乗って、ノッキングが出る寸前を目指してセッティングを行いました。 V120の場合、手元コントローラー付きなので走りながらツマミで点火時期も1度刻みでプラスマイナス5度でコントロール出来るのでこれは非常に助かりました。
装着後、低負荷時に乗りながら点火時期を進めてみて、いきなり車体がぐぐっと前に進んだ時の感動は忘れられません。

ロード(負荷)付きのシャシダイでもあればロード値を見ながらある程度はセッティングも可能ですが、そんなコネも無いのでひたすら実走行のみでセッティングしました。

以前装着していたウオタニSP2でもTPS制御は行いましたが、あちらはあくまで750ノーマルから1200ハイコンプまで様々な仕様のエンジンに対応できる事が前提の商品なので、TPSを入力したからといってもマージンを持たせてあるのである程度の進角/遅角しかしません、自分でマップを現車エンジン合わせで作るのとは少々次元が違います。

また、ノッキングさせない事だけを目的に異様なほど点火時期を遅らせるような点火時期セッティングを施す人もいますが、無茶な(下手くそな)開け方をしてもノッキングしないほどマージンを取るという事は、反面、ベストな点火時期からは大きく外れているという事になります、そこまでしないとノッキングして乗れないようなエンジンの場合は点火時期よりも燃調やエンジン仕様を見直すのが先ではないかと思います。