しつこく続:フルトラ

といわけでフルトラ点火ってのは実に単純明快な点火システムです。

Z1000J/Rのノーマルはフルトラ点火です。
Z1100Rのノーマルもフルトラ点火です。

しかしそれぞれにイグナイターの互換性はありません。
何が違うかというと、トランジスタをON/OFFするタイミング(点火時期の決定)を制御する方法が違います。

簡単に言うと1000J/R系は遠心力を使った機械式の装置で点火時期を制御している都合上、同じ回転数でもその時のクランク回転の加速度によって点火時期がマチマチであるという欠点があります。
例えば同じ3000rpmでも、一定速度で巡航しているときと、フル加速中では点火時期がその「時と場合」で微妙に変わってしまう欠点がありました。
まあ、ノーマルでは問題もないし、この方式がいわゆる「空冷2バルブらしさ」を演出していることは間違いないのですが、如何せんチューニングで圧縮比を上げ、ノッキングを避けたいときなどにこんないい加減な装置では使い物になりません。

対して1100Rは、どんな乗り方をしようが、良くも悪くも点火時期は狂いません。
何故ならあらかじめイグナイターに「●000rpmの時には上死点前●度で点火しなさい」という簡単なプログラムが入っているからです。
これが電子制御の初めの一歩ですね。

ちなみにDYNA-Sは1000J/Rと同じく機械式進角のフルトラです。

DYNA2000は電子制御進角のフルトラです。

Z系に乗ってる人たちがDYNA-Sを好むのも基本的な特性が変わらないからですかね。

じゃあ、DYNA2000はそれだけエライのか?と聞かれると正直、返答に困ります。
DYNA2000の本体(イグナイタ)って空冷Z400~水冷、油冷、空冷の1200や1300まで全て共通共用なんですね。
一応、進角カーブが何種か選べるようにはなっていますが、そこまでの汎用品が偶然にも自分のエンジンにベストマッチするということは稀でしょう。(いじったJ系に関していえば事実上1種類のカーブしか選べません)

勿論、それが街乗りレベルでベストかどうか一般のライダーに分かるか否かは私にはわかりません。

「装着したらシャシダイ計測でピークパワーが5pあがった!」なんて人もいますが、単純にピークパワー時だけの問題ならば、ピーク時の点火時期さえ合わせてやれば良いので電子制御の進角装置のメリットが活かされているかは関係ないでしょう。

また、「ダイナで火花が目に見えて強くなった!」というのも、高性能なコイルを使うには容量の大きいトランジスタが必要なのである程度はイグナイタの性能が火花の強さに関係するといえなくもないですが、結局コイルとの組み合わせ次第です。


いろいろと世間で物議を醸すDYNA製品ですが、ボルトオンでフルトラ化できるのはプライベーターにとってありがたいことです。
私は特に否定はしないけど推奨もしないです。
だって、その代わりになるものは何があるんだ?と聞かれたらボルトオンというキーワードで考えると・・・うーん、えっと・・・ASウオタニさんとこのかな・・・くらいしか選択肢がないので。

仮にDYNAに初期不良があっても、PMCさんとこから新品買ってれば保証もあることだし。

じゃあ、究極の点火制御って何よ?と聞かれると・・・
現行車なら、回転数に加えて

スロットル開度
車速
ギアポジション
カムポジション

が加味されてより細かい制御がされています。
ただ、これは必ずしもパワーを出すためだけのものではありません。
年々厳しくなる走行騒音、近接排気音などの規制に対応するための小細工の道具にも利用されています。
特定のギアのある回転域でわざとパワー落とすとか、そういうギミックです。

これを良い方向に使えばZ、J系でもさらなる世界が広がるでしょう。
これにさらにプラグ座面温度、シリンダヘッド温度、油温、などなどを取り入れて制御することも
予算さえ許せば技術的には可能ですから・・・

夢のような話ですが、クルマの世界ではすでに現実のものとなっています。
現代技術でチューンされた70年代や80年代の空冷ポルシェ等ではここまでやってる車両も居ますね。
ただ、点火系だけでなくKジェトロを廃した燃料噴射系統も含めての、まさにフルコン制御ですが。

なんだかダラダラと遠い話になってしまいました。